東京地方裁判所 平成8年(ワ)20539号 判決
原告 洪敬美
右訴訟代理人弁護士 小見山繁
被告 現代海上火災保険株式会社
右日本における代表者 李英文
右訴訟代理人弁護士 藤井郁也
外一名
主文
一 被告は、原告に対し、金一五五〇万円及びこれに対する平成八年一一月六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用を四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分につき仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、二二二〇万円及びこれに対する平成八年一一月六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、サウナ風呂(韓国式エステティックサロン)を営む原告が、保険会社である被告に対し、三回の漏水事故による休業を原因として、店舗休業保険金二二二〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを請求したところ、被告が漏水事故の存在、通知等の存在、保険事故の該当性、休業の存在・必要性を争っている事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、東京都目黒区自由が丘一丁目八番一八号所在ノーブルビル(鉄骨コンクリート造陸屋根四階建)のうち四階部分(床面積一三二平方メートル)において、「ブルームーン」の名称でサウナ風呂(韓国式エステティックサロン)を経営している。被告は、韓国に本店を有し、損害保険を業とする株式会社である。
2 原告は、被告の代理店である有限会社豊島韓商保険センターを通じ、被告との間で、次の損害保険契約を締結した。
(一) 一回目の契約
保険の種類 店舗総合・店舗休業
保険契約者 原告
保険の目的 設備・機械・什器一式(造作含む)
保険の目的の所在地 目黒区自由が丘一-八-一八
保険の目的を収容する建物の構造 鉄骨コンクリ-ト造陸屋根四階建の内四階部分床面積一三二平方メートル
建物内の職作業 韓国式エステ
保険金額 基本契約金五〇〇〇万円
店舗休業一日につき一〇万円
保険期間 平成六年一〇月二八日から平成七年一〇月二八日まで
(二) 二回目の契約
保険期間 平成八年一月二九日から平成九年一月二九日まで
その他の内容 一回目の契約と同じ
3 被告の店舗休業保険普通保険約款は、保険金支払いの対象となる保険事故について、次のように規定する。
「(保険金を支払う場合)
第一条 当会社は、この約款に従い、保険の目的が次に掲げる事故により損害(消防または避難に必要な処置によって保険の目的について生じた損害を含みます。以下同様とします。)を受けた結果、営業が休止または阻害されたために生じた損失(以下「損失」といいます。)に対して保険金を支払います。…
(6) 給排水設備(スプリンクラ設備・装置を含みます。)に生じた事故または被保険者以外の者が占有する戸室もしくは場所で生じた事故に伴う漏水、放水または溢水による水漏れ。」
4 被告の店舗休業保険普通保険約款は、事故が発生した場合の通知義務について、次のように規定する。
「(事故発生の場合の手続)
第一八条 保険契約者または被保険者は、事故が発生したことを知ったときは、次の手続をとらなければなりません。
(1) 遅滞なく当会社に通知すること。
(2) 前号の通知をした日から三〇日以内に損害状況調書を作成し、これに当会社の要求する売上高等営業状況を示す帳簿その他の書類を添えて提出すること。
(3) 復旧期間終了後三〇日以内に、損失見積書を提出すること。
2 保険契約者または被保険者が、正当な理由がないのに前項の規定に違反したときまたは提出書類につき知っている事実を表示せずもしくは不実の表示をしたときは、当会社は、保険金を支払いません。」
原告は、本件において、右約款一八条一項(2) 及び(3) の手続は履行していない。
第二争点
一 水濡れ事故の存否
1 原告の主張
(一) 一回目の事故
平成七年九月一八日午後五時頃、保険の目的たる設備のうち、浴室内から発生したと推定される漏水事故による水濡れ損害により、平成七年九月一八日から同年一〇月一八日までの三一日間休業した。
(二) 二回目の事故
平成七年一〇月二三日午後八時頃、保険の目的たる設備のうち、スチーム用給水管から発生した漏水事故による水濡れ損害により、平成七年一〇月二三日から平成八年一月一一日までの八一日間休業した。
(三) 三回目の事故
平成八年二月二三日午後九時頃、保険の目的たる設備のうち、サロン中央のカウンター下の流し台下部排水管から発生した漏水事故による水濡れ損害により、平成八年二月二五日から同年六月一三日までの一一〇日間休業した。
2 被告の主張
(一) 一回目の事故
原告本人の供述は原告の主張する日時と三時間も差がある上、後記のとおり、原告が被告に対して右事故を通知したのは八か月も経過した後であって、一回目の事故は存在しない。
(二) 二回目の事故
原告の主張する二回目の事故は、当初は三回目の事故と主張されていたものが、被告の反証にあわせて変更されたものである上、原告から被告に対して平成八年四月八日になるまで事故の通知がなかったのであって、二回目の事故は存在しない。
(三) 三回目の事故
事故の日にちに関する原告の主張は、平成八年二月二五日、二三日、二二日と変遷しており、被告の鑑定人は一月末頃に漏水があったとの報告も受けている上、事故態様に関する原告の主張も、当初は床下の事故、その後は洪水による床上浸水と同様と変更されたが、原告本人は後者を否定する旨の供述をしているのであって、基本的な部分が変更された原告の主張には信用性がなく、三回目の事故は存在しない。
二 通知等の存否(一回目と二回目の事故について)
1 原告の主張
原告は、一回目と二回目の事故が発生した際、事故当日に、被告の代理店である有限会社豊島韓商保険センター(豊島韓商)に通知をしており、右は被告申請の証人朴在守の供述や豊島韓商作成の甲四、五の1から明らかである。また、原告には、「保険金を詐取し又は保険者の事故発生の事情の調査、損害てん補責任の有無の調査若しくはてん補額の確定を妨げる目的等保険契約における信義誠実の原則上許されない目的のもとに事故通知をしなかった」(最判昭和六二年二月二〇日)事情もない。
2 被告の主張
原告が一回目の事故を被告に通知したのは、大矢高生作成の平成八年五月三一日付け書面が最初であって、事故から八か月が経過している。また、原告が二回目の事故を被告に通知したのは、平成八年四月八日であって、事故から五か月が経過している。原告は、本件前の事故と三回目の事故については被告と直接やりとりしており、本件だけ代理店に通知したというのは不自然である。また、被告の担当者は日常的に代理店を訪ねていたのに、代理店からは水漏れ事故の報告が全くない。さらに、被告の担当者は、平成七年一一月や平成八年一月に原告と会っているが、当時既に発生していたはずの一回目と二回目の事故について、原告から話はなかった。なお、朴証人は民団からの圧力を恐れて甲四、五の1を作成したもので、証言の際は老化が著しく進行していた。原告が通知義務を懈怠したことにより、被告は、水濡れしたか否か、営業が阻害されたか、休業が何日続くかを調査、判断する機会を与えられなかったのであるから、判例が免責を認める場合に該当する。
三 保険事故の該当性
1 被告の主張
本件では、継続的、断続的にブルームーンの給排水施設の欠陥から階下へ水が漏れ落ちていた形跡は窺えるが、それらは三回の「事故」と呼べる程の突発的ないしは判然と区別して認識できる漏水事故は認められない。ブルームーンは、サウナと美容エステを業とし、建物内の床の大部分は初めから常時水が流れ、濡れるところとして設計、施工されていたところ、保険の目的のうち、普段水に濡れてはならない場所・造作が濡れ、そのために休業を余儀なくされたことを認める証拠はない。
2 原告の主張
保険契約によれば、建物四階部分一三二平方メートルに収用されているサウナ経営のための全ての設備・機械・什器一式(造作含む)が保険の対象である。被告主張のごとく保険の目的が木製の床、木製のロッカー等にのみ限定されるものではなく、四階の床下に設置された給排水設備及びこれらを埋設または支持するモルタルその他の設備も、通常水濡れしてはならない設備であって、保険の目的である。
四 休業の存否、必要性
1 被告の主張
原告が休業の証拠とする業務日誌等(甲四二、四三)は、被告代理人が店舗を訪ねたときには存在せず、また、被告が予約台帳、予約ノート、受付ノートの文書提出命令を求めた際にも、原告は初めから存在しない旨回答しているのであって、後日作成されたものである。伝票(甲一七)にある平成八年二月二四日、二五日は、原告本人も営業していないことを認めている。三回目の事故で、床の石が水濡れしたり、ソファーが濡れたとしても、そのために全面的に休業する必要はなく、保険金を取得するため意図的に休業しているにすぎず、漏水事故とは因果関係がない。
2 原告の主張
原告の経理関係の書証、給排水設備等の漏水原因の調査・修理関係の書証、営業再開に関する書証、人証等によれば、漏水の原因を究明した上でこれを修理するに要した期間休業したことは明らかである。現預金出納帳(甲一二、一四の各枝番、一八)は、税理士に提出し税務申告に使用するものであり、他の第三者作成文書とも矛盾しないから、信用性がある。
第三争点に対する判断
一 本件の事実経過
1 一回目の事故について
証拠(甲五の1、六、七、一〇、一一、一二の1~5、一三の2、二〇の1、三〇、三一の1、2、四五、証人堀越由美子、朴在守、尹正善、原告本人)によれば、次の事実が認められる。
平成七年九月一八日頃、原告の従業員は、階下の三階にある居酒屋の店長から、天井から水が漏れている旨の指摘を受けた。そこで原告は、同日、豊島韓商に電話で事故の連絡をした。株式会社バウが原告の依頼により、同日に原告店内を調査したところ、漏水の原因は浴室内の防水が切れているためと判断した。そして、同月二五日から同年一〇月一四日までの工程表を作成した上、同年九月二五日から浴室内防水工事と仕上げ等を実施し、同年一〇月一八日に完成して引き渡し、この間営業休止を要請していた。有限会社デルタから同年九月二一日付けで、設計監理料として七五万円の請求書が出されている。原告の現預金出納帳(鉛筆書き)と元帳には、平成七年九月一八日から同年一〇月一八日までの売上は記載されていない。平成八年三月一五日に受け付けられた原告の確定申告書の控えには、水漏れのため平成七年九月は半月休業して一〇月は再度開業したこと、休業が原因で大幅な赤字になったことを記載している。株式会社バウは、右調査の際に給排水管の検査を一応行っていたが、床下の配管系統が不明であること等のため十分な検査ができなかったところ、その後の同社の検査によれば、右漏水は、スチームサウナ床下のスチーム用給水管からの漏水に原因があったことが判明している。
2 二回目の事故について
証拠(甲四、七、一〇、一一、一二の6~9、二〇の1、三三、四五、乙二二の2、証人堀越由美子、朴在守、尹正善、原告本人)によれば、次の事実が認められる。
原告の従業員は、平成七年一〇月二三日、前記三階の居酒屋の店長からまた水が漏れている旨の指摘を受けた。そこで原告は、翌二四日、豊島韓商に電話で事故の連絡をした。株式会社バウは、原告から連絡を受け、同日から原告の店内を調べたところ、浴室内のジェットノズル回り等の防水・コーキングが切れて漏水していたものと判断したが、その後スチームサウナの床を剥がして調査をしたところ、スチーム用給水管からの漏水を発見した。そして、同年一二月一日から平成八年一月一〇日までの工程表を作成し、浴室内の防水工事と給水管の補修工事を実施し、平成八年一月一〇日に工事を完成し、同月一一日に引き渡し、この間営業休止を要請していた。原告の現預金出納帳(鉛筆書)には、平成七年一〇月二三日から平成八年一月一一日までの売上は記載されていない。平成八年三月一五日に受け付けられた原告の確定申告書の控えには、水漏れのため平成七年一〇月に営業を再開したが、四、五日で再度休業し、年末まで営業できなかったこと、休業が原因で大幅な赤字になったことを記載している。
3 三回目の事故について
証拠(甲五の1、八、九の1~5、一一、一四の6~12、一五の2、二〇の2、二六の1~4、二七の1~4、二八の1~5、二九、三八、四五、乙五、二二の2、証人伊藤光雄、高齋敦、原告本人)によれば、次の事実が認められる。
原告の従業員は、平成八年二月二三日、前記三階の居酒屋の店長から、また水漏れが起きた旨の指摘を受けた。そこで原告は、同月二六日に被告に電話で事故の連絡をした。株式会社バウは、原告から連絡を受け、平成八年二月二五日から原告の店内を調べたところ、床下に大量の漏水とサロン中央カウンター下流し台下部排水管の漏水を発見し、詳しい調査や原因解明のため、原告に営業休止を要請した。しかし、同社の修理後に通水テストをしてもなお漏水があり、同社では明確な原因が掴めなかったため、KUDOコーポレーションこと工藤正志に引き継いだ。そして、漏水の原因を探るため、床を上から下まで削り、多数の配管を露出させて行き、サロン内のカウンター下部のバイブル配管に破損部分のあることが一つの原因であると判明し、その対策を行った。そして、東建設株式会社は、同年四月一六日の床解体工事から同年五月二九日のクリーニング工事に至る工程表等を作成し、補修工事を実施した。一方、被告は、損害鑑定人の伊藤光雄に事故の調査を依頼したところ、同人は同年二月二六日に、原告の店舗や三階の居酒屋に赴き、原告や居酒屋の店長と会い、居酒屋店内の写真撮影をするなどした。右伊藤が被告に提出した同年三月四日付け損害調査報告書には、居酒屋から原告に一月末頃漏水の通報があった旨聴取したこと、サウナの排水設備の欠陥を至急修理する必要があること、店舗休業保険は免責の見込みである旨が述べられている。原告の現預金出納帳(鉛筆書)と元帳には、平成八年二月二五日には売上の入金が記載されているが、同月二六日から同年六月一三日までの売上は記載されていない。平成九年三月一四日に受け付けられた原告の確定申告書の控えには、水漏れのため平成八年二月二六日から六月一五日まで休業し、売上が伸びなかったことを記載している。
二 水濡れ事故の存否、通知等の存否について
右認定の事実によれば、原告が主張する一回目から三回目までの年月日に(但し、後記のとおり三回目の休業期間は平成八年二月二六日から)、原告主張の態様の漏水事故があり、保険の目的のうち少なくとも四階床下部分に水濡れ損害が発生したこと、問題となっている一回目と二回目の通知は、原告から被告代理店の豊島韓商に対し、電話で遅滞なく行われたことが認められる。
この点について証人高齋敦(乙一六の陳述書を含む)は、原告から一回目と二回目の事故について聞いたのは、それぞれ事故から数か月も経過後であり、平成七年一一月二一日に別件で原告と会ったときにも、原告から一回目と二回目の事故の話は出なかった、一回目と二回目の事故について、原告から代理店に通知があれば、必ず被告に連絡され記録が残っているはずなのにこれがないのは、一回目と二回目の事故は存在せず、その旨の通知もなかったからである旨供述し、乙二九(光郷成一の陳述書)にも同旨の記載がある。しかしながら、一回目と二回目の時期に水漏れ問題があったことは、検査・修理業者の関係書類から認められ、また、被告代理店に通知のあったことは、被告申請の証人朴在守が証言するところであって(意思能力や利害関係が原因で虚偽の供述をしたことを認めるに足りる証拠はない)、原告は確定申告にも漏水による休業を記載している。そして、一回目直前の平成七年八月二九日にも類似の漏水事故があり、原被告間のやりとりが続いていたことは当事者間に争いがないところ、漏水事故の性質上、ある事故を他の事故と別個のものと明確に認識されず、関係者が一連のものとして対応していた可能性も否定できないことに照らせば、その時期被告担当者に話がなかったことや、被告に記録が残ってないこと等から直ちに一回目と二回目の事故の存在自体がないものということはできない。
証人伊藤光雄は、三回目の事故の際に原告の店舗へ行ったが、店内にはさしたる異状はなく原告からも指摘はなかった旨供述する。しかし、三回目の事故もその大部分は床下から階下への漏水事故である上、同証人の供述によっても、同人はそもそも保険事故には該当しないと判断していたことに照らして、前記認定を覆すには足りない。
被告は、原告の主張の変遷や原告本人の供述の不自然さを指摘しており、そうした部分がない訳でもないが、右のような漏水事故の性質等も斟酌すると、原告の主張の基本的な部分を否定するまでには至らない。
以上によれば、本件の一回目から三回目の水濡れ事故が存在し、原告が遅滞なく被告に通知をしたことが認められる。なお、原告は店舗休業保険普通保険約款一八条(2) 、(3) に規定する書類を提出していないが、右のとおり原告が(1) の通知を履行したと認められるものの、被告が責任を争って爾後の手続が進まなかった本件においては、正当な理由のある場合と認められる。
三 保険事故の該当性
以上の認定によれば、一回目から三回目の事故のいずれについても、床下の給排水管から水が漏れたこと、そのため保険の目的であるビルの四階一三二平方メートル及び設備機械什器一式(造作含む)のうち、少なくとも四階の床下部分に水濡れが生じたこと、同所は通常は水に濡れない場所であるのにこれが継続的に水に浸されるという損害を受けたこと、そしてこれを放置すれば四階床下部分が重大な影響を受けるだけでなく、階下の店舗の漏水が続いて責任を問われる等損害が拡大していくため、早急に修理をする必要に迫られたこと、しかしサウナ風呂という営業の性質上、右修理のためには休業せざるをえなかったこと、したがってサウナ風呂の床下の水濡れ損害と休業との間には、通常の原因結果の関係があることが認められる。
この点について証人高齋敦は、店舗内に水濡れ損害が発生していないから保険事故にはあたらない旨供述する。しかしながら、店舗内の床上にある什器備品や動産類が水濡れするために休業するのが典型的な場合であるとしても、本件のような場合が約款上特に除外されているものとは解されない。したがって、本件は店舗休業保険にいう保険事故に該当するものと認められる。
四 休業の存否、必要性
前記認定によれば、原告は右の原因に基づき、一回目の事故は三一日、二回目の事故は八一日、三回目の事故は平成八年二月二五日を除く一〇九日、合計二二一日間の休業をしたことが認められる。被告は業務日誌や伝票の信用性を争うが、そうした証拠を除外したとしても、右認定を覆すには足りない。
ところで、前記認定によれば、漏水の原因は床下の給排水管であるため、漏水の箇所を特定した上、覆っている床などを除去して問題の給排水管を露出し、当該部分を修理した後、原状に復旧するのに相当の日数を要したことは肯定できる。しかしながら、本件の漏水事故に際しては、素人である原告が業者に修理を依頼したところ、修理業者が当初は事態の全貌を把握しきれず、結果的には根本の解決策にはならないような当面の防水工事を実施するに止まったため、本来であれば一度の修理で終わるはずの漏水事故を、本訴の関係だけで三回も繰り返してしまい、その後に修理業者が交代して原因を解明した結果、必要な工事が実施できたというのであって、明らかに通常とは異なる経緯をたどったことが認められる。
こうしてみると、なるほど一回目から三回目の休業がそれぞれ一回目から三回目の各漏水により生じたものであって、原告にとって長期の休業がやむをえざるものであったことは認められるが、他方でこれら全体を通してみた場合、専門家である修理業者が行った漏水原因の解明やその修理の過程における不備が、繰り返される漏水とこれによる長期の休業の有力な原因となっていることも否定し難い事実である。したがって、原告が実際に休業した二二一日間のうち、その三割にあたる部分については、漏水との相当因果関係を直ちに肯定することかできず、残り七割にあたる一五五日が本件において「漏水事故を受けた結果、営業が休止または阻害された」期間と評価するのが相当と認められる。
なお、被告は、原告による休業の必要性について基本的な疑念を抱いているが、休業しても保険金が下りることを奇貨として、原告が修理に必要以上の期間をかけたことを認めるに足りる証拠はない。むしろ一部争いの存するところであるが、被告の代理店が事故の通知を受けた段階や、被告の関係者が臨場した段階で、被告が何らかの積極的な関与をしていれば、一五五日にせよ長期の休業期間をさらに短縮できた可能性も無視できない。
五 よって、本訴請求は、一日当たりの保険金額一〇万円に右に認定したところの一五五日を乗じた一五五〇万円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があり、その余は理由がない。
(裁判官 齊木利夫)